このページでは金子みすゞさんの
本日の詩をご紹介しています。
「きょうのみすゞさんの詩は・・・」
「冬の花雨」です。
「母さま、母さま、ちよいと見て、
雪がまじつて降つててよ。」
「ああ、降るのね。」とお母さま、
お裁縫(しごと)してるお母さま。
──氷雨の街をときどき行くは、
みんな似たよな傘ばかり。
「母さま、それでも七つ寝りや、
やつぱり正月來るでしようか。」
「ああ、來るのよ。」とお母さま。
春着縫つてるお母さま。
──このぬかるみが河ならいいな、
ひろい海なら、なほいいな。
「母さま、お舟がとほるのよ、
ぎいちら、ぎいちら、櫓をおして。」
「まあ、馬鹿だね。」とお母さま、
こちら向かないお母さま。
──さみしくあてる、左の頬に、
つめたいつめたい硝子です。
(冬の雨:金子みすゞ)
『金子みすゞ全集』
(JULA出版局)より
針しごと中のお母さんは忙しそう、
返事もうわの空。
子供はひとり淋しくしている。
つめたい硝子がさらに淋しくさせます。
鈴木 澪
こちらをみて、お母さま。
でも声はすれど向き合えず、
さみしい心の冬の雨。
大西 進