このページでは金子みすゞさんの
本日の詩をご紹介しています。
「きょうのみすゞさんの詩は・・・」
「林檎畑」です。
七つの星のそのしたの、
誰も知らない雪國に、
林檎ばたけがありました。
垣もむすばず、人もゐず、
なかの古樹の大枝に、
鐘がかかつてゐるばかり。
ひとつ林檎をもいだ子は、
ひとつお鐘をならします。
ひとつお鐘がひびくとき、
ひとつお花がひらきます。
七つの星のしたを行く、
馬橇(ばそり)の上の旅びとは、
とほいお鐘をききました。
とほいその音をきくときに、
凍つたこころはとけました、
みんな泪になりました。
(林檎畑:金子みすゞ)
『金子みすゞ全集』
(JULA出版局)より
りんごは寒い北の国に成ります。
そしてむかしから一番なじんでいた果物で
嬉しいとき、悲しいとき
甘ずっぱいそれは心を
なぐさめてくれたものでした。
鐘の音は何かの合図として鳴らされます。
時に楽しく、時に物悲しく、
私たちの心に響いてきます。
北を行く旅人がその悲しい辛い心に
あった想いを鐘の音が、
もう泪として流してもいいよ、
とつげました。
鈴木 澪
「さみしい王女」をかいたあと
連作のようにも思える。
心の深いところに表われる
みすゞさんの風景。
合唱曲としても好まれ、
よく演奏する曲の一つ。
ひとつ鐘の音が遠くの山や
海に広がって、
その時ちがう世界で美しい花が咲く。
詩のテーマとしては他の詩人の詩にもあるが、
ステージづくりは天才的なみすゞさん。
鐘の音は一番遠くに音を運ぶ
「鳴り物」として教会のチャペルや
世界中で使われている。
NHKのど自慢のカネは一つでも明るい。
人に知らせる一番大切な鐘のことが、
次々に浮かんでくる。すごい詩だ!
大西 進