このページでは金子みすゞさんの
本日の詩をご紹介しています。
「きょうのみすゞさんの詩は・・・」
「納屋」です。
納屋のなかは、うす暗い。
納屋のなかにあるものは、
みんなきのふのものばかり。
あの隅のは縁台だ、
夏ぢゆうは、あの上で、
お線香花火をたいて居た。
梁に挿された、一束の、
黒く煤けたさくらの花は、
祭に軒へさしたのだ。
いちばん奥にみえるのは、
ああ、あれは絲ぐるま、
忘れたほども、とほい日に、
お祖母さまがまはしてた。
いつも、夜なかにや屋根を洩る、
月のひかりをつむぐだろ。
梁にかくれて、わるものの、
蜘蛛がいつでもねらつてて、
絲を盗つては息かけて、
呪ひの絲に變へるのを、
晝は眠てゐて知らないで。
納屋のなかは、うす暗い。
納屋のなかには、なつかしい、
すぎた日のかずかずが、
蜘蛛の巣にかがられてゐる。
(納屋:金子みすゞ)
『金子みすゞ全集』
(JULA出版局)より
納屋の中にあるものは、
みんななつかしいものばかり。
あの日、あの時に使ったものたち。
時間がたって、
くもの巣がはってしまったものもある。
納屋のなかは過去がいっぱいつまった、
まるでタイムマシーンのようだ。
鈴木 澪
なんでも自分の家でつくってた昔。
道具がいっぱいありました。
納屋がなければのき下に。
そして季節がくるたび、表に出して。
五連目のくもの月の光の織り物を
くもの糸にするなんて。
でもくもの巣ほんとにキレイですね。
大西 進