縫ひものしながらお祖母さまは、
いつもおはなし、きかせました。
おつる、千松、中將姫……、
みんなかなしい話しばかり。
お話しながらお祖母さまは、
ときどき浄瑠璃をきかせました。
おもひ出しも胸がいたむ、
それはかなしい調子でした。
中將姫をおもふせいか、
そのことはみんなみんな、
雪の夜のやうにおもはれます。
それももう遠いむかし、
うたの言葉はわすれました。
ただ、せつない、ひびきばかり、
ああ、いまも、水のやうに、
かなしくしづかに泌みてきます。
さらさらと、さらさらと、
ふる里の音さへも……。
(お祖母樣と浄瑠璃:金子みすゞ)
『金子みすゞ全集』
(JULA出版局)より
幼いころ聞いたお話っていつまでも覚えているものです。
大人になっても……。
人の思い出は、その多くは楽しいことより、
悲しさ寂しさに包まれています。
人間は本来さみしい生き物なのですから。
鈴木 澪